呼吸リハビリテーション



呼吸リハビリ部門のご紹介

当院の呼吸リハビリ棟は、1991年3月に日本初の呼吸リハビリテーション専門施設として開設された、全国的にも数少ない施設です。

明るく開放的な空間の中に、患者様や家族の教育・研修を主体にした多目的ホール、運動負荷テストやトレーニングのための自転車エルゴメーターやトレッドミルが配置された機能訓練室、また排痰指導・理学療法室や作業療法室、さらに入浴時の呼吸機能測定のための水治療室など、呼吸リハビリを合理的かつ体系的に行うためのすべての設備を配した施設となっています。

また栄養指導室、在宅医療室、患者の会「ホットの会」事務局も併設し総合的なケアをめざしています。専門スタッフは、呼吸器科医師を中心に看護師、健康運動指導士、理学療法士、作業療法士、臨床検査技師で運営しています。

これらのスタッフで、以下などの評価を行い、その評価に基づき、患者様一人一人に適したリハビリテーションプログラムを提供しています。

  • ◦ 運動負荷試験
  • ◦ 歩行テスト
  • ◦ 呼吸筋力テスト
  • ◦ 呼吸機能測定
  • ◦ 睡眠時の呼吸評価

リハビリテーションプログラムの内容は、以下などがあります。

  • 1.呼吸法の練習
  • 2.排痰療法
  • 3.呼吸筋トレーニング
  • 4.運動療法
  • 5.作業療法
  • 6.日常生活指導
  • 7.教育プログラム

対象は肺気腫などの慢性呼吸不全、肺外科手術前後、重症脳損傷児などです。なお、呼吸リハビリを希望される患者さんは、まず呼吸器内科の外来を受診して治療方針を決定することが必要です。

呼吸リハビリ棟の全景

呼吸リハビリ棟の全景


呼吸リハビリテーションとは

呼吸リハビリテーションは、呼吸器の慢性疾患を持った患者さんがより良い日常生活を出来るようにするための治療方法です。

対象になる患者さんは、肺気腫、慢性気管支炎、慢性気管支喘息、肺結核後遺症、気管支拡張症などで呼吸機能が低下し日常生活で何らかの支障をきたすようになった患者さんです。

これらの病気では病気そのものを完全に取り除くことは出来ませんが、呼吸リハビリによって、呼吸が楽になり日常生活の質(クオリティー・オブ・ライフ;QOL)が向上することが知られています。

具体的な内容としては、運動療法、栄養療法、呼吸訓練、日常生活動作の工夫、酸素療法の調整、排痰法などのほか、病気や薬についての正しい知識の習得などが含まれます。

当院では、呼吸リハビリの適応になる患者さんに対して、約1ヶ月間のリハビリ入院を勧めています。個々の患者さんに対していろいろな角度から評価をおこなった上で、リハビリのメニューを決定し、患者さんに適したリハビリをおこないます。


呼吸状態等の評価について

平地歩行評価

呼吸器疾患の患者さんは、安静にしていると息苦しさはなく血液の酸素も保たれているのに、動き始めたとたんに息苦しさが強くなったり、血液の酸素が大きく下がってしまうことがあります。

そこでリハビリ棟では平地歩行時の呼吸状態を詳しく評価する検査を行い、日常生活時の酸素吸入量の設定や歩行方法の指導に用いています。

リハビリ棟で行う歩行テストとしては、10分間歩行テスト、シャトルウォーキングテストなどがあります。

① 10分間歩行テスト

この検査は、リハビリ棟の片道50mの廊下を、行ったり来たり10分間歩行する検査です。酸素モニターを指先につけ、酸素の状態、脈拍、歩行距離を主に測定すると共に息苦しさの状態も評価します。

② シャトルウォーキングテスト

この検査は、10m間隔で置いた目印の間を徐々に歩くスピードを上げながら歩き続けるテストです。このテストの結果は体の運動能力を良く反映するため、トレーニング効果を判定やトレーニングの強度設定の指標として用います。

酸素療法をしていない患者さんの歩行検査の結果では、安静時には酸素飽和度(SpO2)が正常でも、歩行開始3分目位で酸素が低下してしまう方が多くみられました。(グラフ参照)

病気によって息苦しさや酸素の低下のしかたに違いがありますが、息苦しさを感じていなくても急激に酸素が低下してしまう方や、逆に酸素の低下が少しでも息苦しさの強い方もいます。自覚症状のみでは正確な判断ができないことが多いようです。

この検査によって安静時は酸素吸入が不要でも、歩行時には必要なことが明らかになり、在宅酸素療法を導入することで楽に生活が出来るようになることがあります。

また、酸素がある程度低下する方に対して、歩行速度をゆっくりにして、同時に呼吸方法に注意して歩いてもらうことで酸素吸入までしなくとも酸素状態も息苦しさも改善できる場合もあります。

歩行テスト グラフ


入浴動作評価

慢性呼吸器疾患の方の日常生活において最も負担の大きい動作の一つに「入浴動作」があげられます。入浴動作には、衣服の着脱・浴槽までの移動や出入り・お湯をくむ・体を洗う・拭く、といった連続した動作が含まれています。

これらの動作を遂行する中で、知らず知らず息苦しさの原因となる姿勢を繰り返し、入浴に対して疲労感を強く感じている方が多いようです。

当院では、必要な患者さんには、実際にリハビリ棟の浴室で入浴して頂き、その時々の酸素飽和度・脈拍を測定するとともに、息苦しさや体の疲労感をお尋ねし、その結果を総合して、自宅でより快適に入浴していただけるようにアドバイスをさせて頂きます。

今までの入浴評価の結果(グラフ参照)から、酸素飽和度(SpO2)は、衣類を脱いで簡単に体を洗った後の1回目の入湯時に一番低下しやすく、次に体拭き・着衣で低下しやすい傾向がありました。

病気によって違いがありますが、脈拍も体拭き・着衣時に増加する方が多く、その時に息苦しさも強くなっています。立ったまま足先まで手をのばしたり、中腰の姿勢のまますばやい動作をしたり、両手に力が入る時に息をこらえたりするなどの事が影響していると考えられます。

一般的には、酸素療法が必要な方は酸素吸入をしていただいた上で、入浴時、楽に呼吸できるような姿勢をとり、可能なかぎりゆっくりと動作をし、呼吸に注意しながら時々休憩を入れて入洛をおこなってもらうと、酸素飽和度や脈拍、息苦しさが改善することが多いようです。

入浴動作 グラフ


階段昇降時評価

健康な人でも階段や坂道の上りは息苦しさや動悸を感じる動作ですが、特に呼吸器疾患患者様では息苦しさのためにできたら避けて通りたい動作ではないでしょうか。

階段をのぼる場合は短時間のうちにかなり強い運動を強いられる為、のぼっている最中はそれほど息苦しさは現れなくても、のぼった後に息も絶え絶えとなる状態となる経験をお持ちの方が多いようです。

リハビリ棟で階段昇降時の検査をしたところ患者様の平均的な変化としては、階段の下りでは酸素や息苦しさの変化は強くありませんが、階段を48段上り終わった後の1分間に酸素が急激に低下したり、脈拍が急上昇したりという変化が現れていました。

そこで、階段の上り方として、呼吸を整えながら、ゆっくり上ること、呼吸が乱れてきたらその時点で少なくとも1分30秒から2分は休むようにすると、酸素の低下や息苦しさも改善されました。一人一人の患者様に適した上り方がありますので、まず検査を受けられてください。


睡眠時評価

慢性呼吸器疾患の患者様では、昼間身体を動かした時に血液の酸素が低くなったり、夜眠っている時も酸素が低くなることがあります。

昼間は息苦しさがあれば意識的に大きな息をしたりして楽になるような努力をしますが、眠っている時はそのような働きが弱くなります。

昼間の酸素は充分でも眠ってしまうと息が浅くなる方もおられ、昼間よりも酸素が低くなることがあります。

また、起きている時は健康な人と変わらず、肺や呼吸器に異常はないのに、眠ってしまうと短時間(10~150秒、平均30秒)息が止まることを頻繁に繰り返し、その度に酸素が下がる方もいます。(睡眠時無呼吸)

働きざかりの男性、特に体格のいい方でイビキをかく方に多く、当院ではイビキ外来でそういった方の診療を行っています。睡眠中の呼吸の異常は、小さな器械を指先につけて眠るだけで簡単に調べられます。

知らないうちに身体が酸欠になっていると、心臓など他の部分にも影響が出てくることもあります。寝ている間の呼吸の状態を調べ、異常があれば早く治療ができるように担当医に報告することは、リハビリ棟の大切な検査の一つです。


栄養状態の評価と対策

慢性呼吸不全の患者様ではしばしば栄養不足が病状に悪影響を与えることが知られています。それは健康人に比較して呼吸そのものに多くのエネルギーが消費され、摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスがマイナスになることなどが関係していると考えられています。

このような場合、呼吸筋力が低下し、また身体の抵抗力が弱くなって、病状の悪化につながります。一方逆に、肥満が問題になる場合もあります。

とくに腹部が大きくなるような肥満は、肺を圧迫し、横隔膜の動きを悪くして、酸素飽和度の低下や炭酸ガス貯留につながります。また、咽頭部脂肪沈着は夜間の咽頭部での呼吸の流れを妨げ、睡眠時の無呼吸や炭酸ガス貯留の原因になることがあります。

そのため、慢性呼吸不全では適正体重を保つことが必要です。当院呼吸リハビリ棟では、身体計測 (体重、身長、皮脂厚、四肢・体幹周囲径など)、インピーダンス法による体脂肪量測定、安静代謝量測定などの評価を行い、必要な場合は栄養士による栄養指導を行っています。


理学療法について

呼吸訓練

呼吸法には、腹式呼吸(横隔膜呼吸法)や口すぼめ呼吸があります。これらの呼吸法を習得することにより、呼吸数の減少、一回換気量の増大などにより、運動時の呼吸困難感の軽減効果が期待できます。

病気の種類や状態によって効果がない場合や、上手にできない場合もあり、患者様一人一人に適した指導を行っています。

排痰療法

アカペラとフラッター
アカペラとフラッター

病気などで痰が溜まってうまく出せない状態になると、息切れ感の増加や気道感染の誘因となりますので、日常の排痰が重要になります。

排痰療法には、自分で行える方法としては、体位排痰法や痰の排出を容易にする器具を使った方法などがあります。

体位排痰法とは、痰が出やすい姿勢を一定時間とる方法です。器具を使う方法は、フラッターやアカペラという器具を使用します。

この器具を口にくわえ、息を吐くと、圧が加わると同時に中のボールやバルブが振動し、その圧力で気道が拡がり、振動と空気の流れによって、痰が出やすくなります。

また、自力でなかなか痰が出にくい患者さんには、痰が出やすい姿勢での呼吸介助法(呼気の介助を他動的に行う方法)を併用して排痰の援助を行います。

このようないくつかの排痰法の中から、日常の痰の量や体の状態に合った方法を指導・実施します。

排痰療法 グラフ

グラフは、ある患者様に排痰援助を行った時の一日の痰量を記録したものです。この方の場合、実施により開始前と比較して多い時で約二倍近く痰が出たことが判ります。


呼吸筋強化

慢性の呼吸不全の患者様では、呼吸を行うのに必要な筋肉が弱くなったり疲労している場合があります。弱くなっている場合は呼吸筋を強くするための呼吸筋トレーニングを行います。

呼吸筋が強くなることで息苦しさが軽くなったり、たくさん動けるようになるという報告が多くあります。また疲労している場合はトレーニングよりも休息をとることが必要です。

呼吸筋トレーニングの方法としては、主に腹部に重りをのせて、それを持ち上げるように呼吸する腹部重錘負荷法や、息を吸うときに抵抗がかかる器具(PFLEX,Threshold)を使用し、それに抗して息を吸うことで呼吸筋を強める呼吸筋耐久性訓練法があります。

当リハビリ棟では、患者様の呼吸筋が弱くなっているのか、疲労しているのか、どちらの状態であるかを判断し、休息の必要性、トレーニングの程度を決める試みをしています。

PFLEXPFLEX
PFLEX

吸気力の変化 グラフ
吸気筋トレーニングによる吸気力の変化(84歳 男性)


運動療法

現在、呼吸困難の改善効果などが最も明確に証明されているのは運動療法であり、運動療法は呼吸リハビリの根幹であるとされています。

慢性の呼吸器疾患の患者さんは、急いで歩いた時や階段や坂道を上った時などは酸素の消費量が急激に増加し、運動直後に酸素負債という現象が生じ運動を止めた直後2-3分に運動時よりさらに息苦しさを感じることがしばしばあります。

また、バランスを崩すような動作をした時や無理な動作をした時などには呼吸のリズムを崩したり、息止めをしたりして、換気量の低下を来します。それらを避けるために日常的に不活動になりがちです。

私たちの身体は、動くことで獲得した機能や力を維持しています。このため活動量が少なくならないように生活の中に運動習慣を持つ必要があります。私たちの身体の70%以上の筋肉は腰から下にあり、歩くことと、少しの手を使った運動で生活に必要な体力と機能を維持することが出来ます。

運動療法の効果

まず運動の強さは、ニコニコペースであること。この強さは自分の持っている最大の力のおよそ40-75%程度で有酸素運動域(エアロビクス)と少し頑張りが必要な無酸素性の運動域が重なる運動強度にあたります。

有酸素運動域内であれば、乳酸と呼ばれる疲労物質を多く作らなくて運動ができ息切れも軽くてすみます。この有酸素域と無酸素域の重なった域の無理のない強さが至適運動強度(効果的な運動強度)と言います。

この方法により1日1-2回・20-30分/回・4-5日/週、当院でトレーニングをした結果4-5週間で血圧の減少、脈拍の減少、きつさの軽減、乳酸の減少、低酸素血症の軽減などがみられました。

運動処方の方法

運動療法を始めるにあたっては運動の強さと時間、回数、種類などを決める必要があります。当院では、まず医師・検査技師・看護婦・健康運動指導士などが立ち会い運動負荷検査を行います。運動負荷検査では自転車エルゴメーターを使って1分ごとに均等な強さをペダルに加えていき、自分でここまでだったら大丈夫と思うところまで運動を続けます。およそ10~15分くらいの間です。この間に次の項目を1分ごとに測定していきます。

  • 1. 心拍数:身体に加わる負荷に対して必要な数まで上昇できるか
  • 2. 動脈血酸素飽和度:どれくらいの強さの運動で低下が起こるのか
  • 3. ボルグスケール:筋肉痛や息苦しさの増強
  • 4. 血圧:心拍数と同じで運動強度の上昇に伴う血圧上昇の程度
  • 5. ダブルプロダクト:心拍数と血圧を乗じた数の変化
    (心臓への負担の強さをあらわす)
  • 6. 心電図:2~3分ごとに記録し、心筋虚血・不整脈の増悪その他を見つけます。
  • 7. 呼気ガス分析:運動時の呼吸回数・呼吸の大きさ・呼吸効率・酸素摂取量などを経時的に測定

これらの項目を参考に疲労物質の急増ポイント・酸素飽和度の低下ポイント・比較的軽いきつさの運動域・心筋の酸素消費量急増ポイント・呼吸の急増ポイントなどからニコニコペース強度を決めます。同時に運動時の適量の酸素吸入量も決定します。

運動内容

自転車エルゴメーターやトレッドミル(床が動く歩行練習マシン)・ダンベル・ストレッチ・腹筋等の筋トレ・ウォーキングなどです。最初は酸素の低下や心拍数の管理が容易な自転車エルゴメーターかトレッドミルまたはリハビリ棟内の歩行等から個人に適した方法でおこないます。呼吸リハビリでの運動療法は、呼吸法(口すぼめ呼吸)にも注意して運動を行います。

健康の質をを高め、維持するには早期から「適度の栄養」と「適度の運動(身体活動全般)」そして「十分な休養が」必要です。これらの維持には、健康に対する知識と求め続ける「意欲と意志」が欠かせません。この意欲や意志は体力の重要な因子で、私たちの身体を守り維持する防衛体力のひとつです。

自転車エルゴメーター
自転車エルゴメーター

トレッドミル
トレッドミル

ダンベル
ダンベル

血中乳酸の変化 グラフ

心臓の機能 グラフ


作業療法について

呼吸器疾患の作業療法

呼吸器の病気の方は、日常生活の動作で息切れを感じることや、動作をすることで血液中の酸素が低下して肺や心臓に負担がかかってしまうことが多くあります。

作業療法では、呼吸器の病気の方が、食事、入浴、着替えなどの身の回りのことをする際や、家事や趣味活動などを行う際に、できるだけ息切れを感じることなく楽に、そして安全に行えるように訓練、指導、援助を行います。

動作時の低酸素血症を評価するため、モニターを装着して動作中のSpO2をモニタリングします。また、動作時の呼吸の仕方、呼吸数、動作姿勢、動作スピード、動作の手順をチェックします。その結果、改善すべき点があると判断された場合には、呼吸法や動作の工夫等の指導を行います。

作業療法例 掃除機がけ
作業療法例:掃除機がけ
SpO2モニター
SpO2モニター
重度心身障害児(者)の作業療法

入所および在宅の重度心身障害児(者)の方を対象に、身体の変形・拘縮の予防を目的とした関節可動域訓練、運動発達の援助を目的とした座位訓練、歩行訓練、上肢機能訓練、およびQOL向上を目的とした作業活動などを行っています。また、作業療法士養成校から実習生を受け入れ、学生教育にも取り組んでいます。

睡眠時無呼吸症候群の療法

睡眠時無呼吸症候群と肥満の関係

閉塞性睡眠時無呼吸症候群の原因は単一ではありませんが、上気道(咽頭)の狭小化が大きな要因になっています。その狭小化には肥満に伴う咽頭周囲への脂肪沈着、扁桃肥大、小顎、下顎後退などが関係しています。

この中で最も多いのは肥満であり、体重の増加に伴って症状が出現・増悪(いびきの増強、眠気の出現)する例が多いようです。

肥満の有無は一般にBMI(体重kg÷身長m÷身長m)で判定されます。BMIは22が標準で、25以上が肥満とされています。

しかし肥満が関係しているかどうかはBMIだけで判定できるわけではなく、肥満が軽度でも咽頭周囲の脂肪沈着が強い場合もあり、そのような場合は減量が有効である可能性があります。

簡単には若い体調の良かった時(たとえば20歳の時)の体重からの変化が一つの参考になります。

睡眠時無呼吸症候群の減量療法

肥満の関与が大きい場合は、体重減量が根本的な治療になります。実際に体重減量のみで治癒する例があるのは事実です。しかしとくに眠気などの症状の強い例ではまず鼻CPAP療法などで症状をとって、平行して体重減量をはかることが大切です。

それは狭心症・心筋梗塞・脳梗塞などの合併症を予防するうえで必要であり、また食事・運動療法をスムーズに進める上でも大切なことです。

減量療法の実際

体重を減らす方法は、食事療法と運動療法が2本柱です。短期間に体重を減らすには食事療法が最も効果的ですが、あまり摂取カロリーを減らすとエネルギー代謝量まで減ってしまい、その後の減量がより困難になる可能性もあります。

そこで適度な摂取カロリーのもとでの運動療法が良いと考えられます。当院呼吸リハビリ棟では、各個人で安静代謝量(安静時に消費されるエネルギー量)を測定し、食事処方の参考にしています。

運動療法はいわゆるニコニコペース、すなわち自分の持っている最大の力のおよそ40~60%程度の強度で、長時間おこなうことが重要です。あまり強い運動では脂肪の燃焼が少なくなります。また弱すぎると消費カロリーが少なくなります。そこで中程度の強さが最適ということになります。

具体的には毎日30分以上のウォーキングなどが勧められます。当院呼吸リハビリ棟では漸増負荷試験等での評価により各個人に最も適した運動処方をおこなっています。また気長に続けることが必要であり、そのためには運動を生活の一部に組み込むことが望ましいと思われます。

運動療法の実際

運動は両刃の剣

運動のやりすぎは、筋肉・筋膜・腱・骨などを痛めたり過剰な疲労状態に陥ったりして身体をこわしてしまうこともあります。しかし、その人にとって適度な運動は、身体の機能を高め、安定させ、強化することが出来ます。

体力は、生活習慣や年齢とともに短時間に少しずつ変化します。自分の体力を知り無理のなく体力に適した行動習慣を身につけましょう。

メディカルチェック

減量のための運動には関節の運動が伴います。まず身体機能のチェックは、各関節の変形や痛みがないか、運動に必要な関節の可動域が確保されているかなど整形外科的なチェックから入ります。

次に安静時、運動時、運動後と一連のながれのなかで、運動中や終了直後に血圧・心拍・心電図・筋肉痛や疲労感・息苦しさなどに無理や異常が出ないかなど医療的な検査をします。

減量メニュー作成にあたっては、個別性の配慮が特に必要です。個人に適したメニューでなければ継続が困難だからです。

運動処方

運動の種類や頻度、運動強度、運動量(時間)、実施する時間帯を決定するには体力・体力の特性・合併症の有無、肥満の程度・肥満のタイプ・肥満か過体重(筋肉が多い)かなどの評価を出来るだけ詳細に判断する必要があり、目標体重設定も筋肉が多いか否かで大きく変わってきます。

一番の問題は運動をどの時間帯で実施するか又は時間をつくれるかです。このため運動処方の内容は検査結果から、一方的ではなく患者さんと話し合って決めることになります。

内臓脂肪型肥満は皮下脂肪型より痩せやすい?

多くの成人病を引き起こす内臓脂肪型肥満は、下脂肪型肥満より運動による減量効果が大きいことが最近分かってきました。

有酸素運動が皮下脂肪より内臓脂肪を特異的に減少させること、さらに食事療法に比べ約2倍の効率で内臓脂肪を減少させるとの研究報告があります。


運動療法と食事療法

肥満は、一部の疾患を除けば過食と運動不足の結果から生じます。単純に考えれば食べ過ぎたら、脂肪として身体に沈着する前に運動によって消費すれば良いのです。しかし現実には非常に困難で、多くの人が運動をしているにもかかわらず太ってしまうと言われます。それは次の事を比較してみれば理解できると思います。

運動による30分消費エネルギー例>体重70kgの場合
平地歩行(60m) 110カロリー
平地歩行(80m) 160カロリー
平地歩行(100m) 230カロリー
軽いジョギング 290カロリー
ラジオ体操 120-230カロリー
ジャズダンス(普通) 320カロリー
自転車平地走行(10km/時) 170カロリー
自転車平地走行(15km/時) 250カロリー
階段登り 280カロリー
遊泳(クロール) 790カロリー
遊泳(平泳ぎ) 410カロリー
卓球(練習) 310カロリー
バドミントン(練習) 320カロリー
テニス(練習) 300カロリー
ゴルフ(練習) 180カロリー
サッカー(練習) 180-300カロリー
バレーボール(練習) 300-530カロリー
剣道(かかりげいこ) 1180カロリー
縄跳び 560カロリー
登山 220-320カロリー
摂取エネルギー例
フランス料理フルコース(一例) 1600カロリー
親子丼 620カロリー
かつ丼 860カロリー
炒飯 740カロリー
きつねうどん 360カロリー
ラーメン 480カロリー
スパゲッティミートソース 630カロリー
焼き魚定食 610カロリー
すき焼き定食 1040カロリー
幕の内弁当 730カロリー
にぎり寿司(上) 650カロリー
ハンバーガー 390カロリー
ミックスサンドイッチ 420カロリー
ビール(大びん630ml) 246カロリー
焼酎25度(1合:180ml) 254カロリー
日本酒(1合:180ml) 198カロリー

運動療法の実際(1991年4月南江堂)糖尿病の運動療法 佐藤祐造/押田芳治より引用算出

上記のように食事で600カロリー摂取するには、早食いの人では10分前後しか要せず、逆に同量のエネルギーを消費するには軽い運動で3時間も要し、縄跳びでは30分間も跳び続けなければならないのです。

言い替えれば人の身体は、非常に燃費の良いエンジンと言え、少ないエネルギーで多くの運動や活動の持続が可能です。このため減量では、運動療法より食事療法が効率的であると言えます。

しかし、食事療法のみで極端な減量をした場合、骨の堅さや筋肉量まで低下させ、筋力の低下や基礎代謝量の低下などを起こし、かえって減量しにくい状況をつくってしまいます。

この他に以下の運動効果が期待できます。

  • ◦ 食事療法と運動療法の併用でエネルギー消費が増加する。
  • ◦ 運動療法により脂肪の減少(特に内臓脂肪)と除脂肪量の増加が出来る。
  • ◦ インスリン感受性や高インスリン血症・糖及び脂質代謝を改善する。
  • ◦ 運動による充実感や不安やうつ状態を改善する精神的効果が得られる。
  • ◦ 乳酸抵抗性が向上し、より強い運動が可能になる。
  • ◦ 心肺機能の改善によって同一運動に対して心拍数の減少や血圧の下降が生じ、より楽に運動が可能になる。
  • ◦ 運動継続により最大酸素摂取量が増加し、持久力が向上する。
  • ◦ 運動中の呼吸困難感や不安感が改善し日常生活活動の拡大やQOLの改善が期待できる。
  • ◦ 運動誘発喘息が起こりにくくなる。

患者様・ご家族の方へ

気管支や肺が病気になると、空気の通り道(気道)がつまったり、肺での酸素と二酸化炭素の受け渡しがうまくできなくなり身体に必要な酸素が不足します。酸素不足は普通は息切れとして自覚されます。

しかしこの状態が続くと、病気によっては酸素不足に少しずつ慣れてきて、あまり息苦しさを感じなくなり、その分無理をしてしまうことになり心臓など他の臓器に負担がかかります。また、ちょっとした風邪や不摂生で急に病気が進行し、取り返しがつかなくなることもあります。

こういったことを避けるためには、定期的な受診も大切ですが、それ以上に自分の病気を正しく理解すること、毎日の自己管理と異常の早期発見、適切な対応が必要です。

呼吸リハビリ棟では、特に慢性呼吸不全の患者様にとって必要な、薬の飲み方や吸入の仕方、酸素療法、運動の方法や呼吸法、入浴や息苦しさを伴いやすい動作の克服法、排痰法、栄養のとり方、心理的不安やストレスのコントロール、異常の早期発見の仕方などを、患者さんや家族の方々を対象に定期的にあるいは患者さんの必要性や要望に応じて情報提供、勉強会を行っています。

また、リハビリ棟で行う検査の前後には目的や方法などを詳しく説明させていただいています。このほか、各社から発行されているわかりやすい教育用ビデオは、入院・外来をとわず、随時ご覧頂けますので、スタッフにお気軽にお問い合わせ下さい。